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歴史の中に生きた人々の感情を空想する

#奈良#歴史#澤田 瞳子#興福寺

歴史小説作家

澤田 瞳子さん

2018年、奈良・興福寺の中金堂が、1717年に火災で焼失して以来約300年ぶりに再建されました。その落慶記念として歴史小説作家の澤田瞳子さんが執筆された『龍華記』は、平安時代の南都焼き討ちの混乱する世と再建に奔走する人々の姿をリアルに描いた歴史小説です。真摯な研究と豊かな想像力によって描かれたドラマは、まるで再建現場の実況中継のようです。澤田さんに『龍華記』の制作談や歴史の楽しみ方について伺いました。

なぜ、興福寺を舞台とする南都焼き討ちをテーマに選ばれたのでしょうか?

中金堂落慶記念として出版の話をいただいた時、最初に考えたのは、私が古代を一番得意としているので、阿修羅をはじめとする八部衆や仏像が作られる興福寺建立時の物語でした。他に江戸時代に中金堂が作られた時の話、そして南都焼討と合わせて3つの選択肢がありました。

その中で南都焼討の話にしたのは、私自身の強い平家物語に対する興味が理由としてあります。平家物語はとても長いお話で、一つの小説で収めるには難しい題材です。それを、平家物語に出てくる色々な事件や人物について、様々な角度から書くことによって、読者さんが通読して「これが澤田版平家物語なのか」とわかるような作品群を作りたいという野望がありました。平重衡と南都焼討の部分を『龍華記』で書き、また別の小説で別の平家物語を書いてみたい、そんな思いでテーマを選定しました。

古代についても書きたいと思っています。藤原鎌足や藤原不比等をテーマにした時は、多分別の形で興福寺が舞台として登場するでしょうね。

登場人物が頭の中で動いているような…、そんな澤田さんのような思考ができれば歴史や文化をもっと楽しめるようになるだろうと想像します。何かコツはありますか?

私は元々空想好きな子供だったので、自分が小さい頃からお気に入りの小説やドラマがあると、そこに一つ架空の登場人物を入れてみて、それが絡んだら他の人はどうなるのか…というような事を考える遊びをずっとしていました。今でも私は、歴史小説を書く中で歴史という確固たる存在する物語の中に、架空の人物を入れるとこの人どう動くのかな…という実験や化学反応を楽しんだりしています。

例えば博物館の中では、資料やキャプションの中で、この袈裟は誰が誰に与えたものである、という記述を読んで、それはどんな風景だったのだろうと想像をしますね。歴史の概説書や教科書を読むだけでは、なかなかそれを生きた人間の話としては考え難いですけれども、歴史上の場面には必ず生きた人がいて、きっと彼らは大変な苦労をしてたんだろうな…と、私は思うんですよ。

ある古い資料に、数え年4歳、実年齢で2歳半のお姫様が、鼻の穴にサイコロを詰めてしまった。そこで加持祈祷がうまいお坊さんが祈ったらそのサイコロが出てきて良かったね…と書かれたものがあるんです。これは研究者には、特に面白くも何ともない資料なんですけれど、2歳半の女の子が鼻の穴にサイコロを詰めるって、現代にもありそうな光景ですけれど、周囲のお付きの女性たちはすごく狼狽したと思いますし、「加持祈祷がうまいお坊さんを呼ぼう!」って呼ばれたお坊さんも困ったと思うんですよ。でもどうにかして出てきたから良かったね…、という話は、今の我々でもごく自然に感情移入できることだと思うんです。でも、歴史資料にはそこまで書いてないんです。私はやはり、当時の人も生きていましたし、そこに色々な喜怒哀楽があっただろうと考えているので、資料には書かれてないこうした部分に注目しています。

興福寺では、約120年ぶりに五重塔の大修理が行われますね。

五重塔は、ずっと昔にあれだけの大きな建物を建てた人がいて、それをずっと見てきた人がいるということに感動します。私たちは高層ビルも知ってるし、マンションだって高いものをたくさん見ていますけれど、当時の人たちにとって最初に塔が建てられた頃は、恐らく2階建てや3階建ての建物が果たしてあったのだろうか…という世界なわけです。そんな低い建物で生きることしか知らなかった時代に、あれだけ高い建物を作ろうとするメンタリティ、そして本当に作ってしまったという、当時の人々に対する驚きを感じることができます。

是非、五重塔を見上げながら、きっと当時の人々も、こんな風に塔を見上げていたのだろうな…と、感情移入をしながら眺めてみてください。

■澤田瞳子『龍華記』、KADOKAWA、2018年

<あらすじ>

南都焼き討ち―平家の業火が生む、憎悪と復讐に終わりはあるのか。
高貴な出自ながら、興福寺の僧兵に身を置く、範長。
興福寺を守る使命を背負う範長の従兄弟、信円。
そして、復興に奔走する仏師、運慶。

時は、平家が繁栄を極める平安末期。高貴な出自でありながら、悪僧(僧兵)として南都興福寺に身を置く範長は、都からやって来るという国検非違使別当らに危惧をいだいていた。検非違使が来るということは、興福寺がある南都をも、平家が支配するという目論みだからだ。検非違使の南都入りを阻止するため、仲間の僧兵たちとともに、般若坂へ向かう範長。だが、検非違使らとの小競り合いが思わぬ乱戦となってしまった。激しい戦いの最中、検非違使別当を殺めた範長は、己の犯した罪の大きさをまだ知らなかった一平家が南都を火の海こにし、復讐の連鎖を生もうとしていることを。

※ボイスドラマ「龍華記」、2022年2月より YouTubeで公開

澤田 瞳子(さわだ とうこ)

1977年、京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、同大学院博士前期課程修了。奈良仏教史を専門に研究したのち、2010年に長編作品『孤鷹の天』でデビューし、同作で中山義秀文学賞を受賞。2013年『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞受賞。2016年『若冲』で親鸞賞を受賞(直木賞候補)。2021年『星落ちて、なお』で第165回直木賞受賞。他の著書に『日輪の賦』『泣くな道真 大宰府の詩』『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』『腐れ梅』『火定』『落花』など。

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