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刀をつくるというジレンマ

#刀#奈良#河内 國平#職人

刀鍛冶

河内 國平さん

奈良県無形文化財保持者の刀匠、河内國平さんは2014年に刀剣界の最高賞である「正宗賞(太刀・刀の部門)」を受賞された名匠です。河内さんは第14代刀匠河内守國助次男として大阪に生まれ、最後のニホンオオカミのいた村として知られる奈良県東吉野村に1972年から鍛刀場を構えています。河内さんの仕事場を訪ねました。

鍛刀場(たんとうじょう)の入口。一振りの刀が作られるまでの鍛冶屋仕事は本来1ヶ月半から2ヶ月かかるという。さらに研ぎ上がりまでの完成を考えると半年ほど要する工程を、2日間に凝縮して見せていただいた。

刀を作るにあたり大事なのは「火」である。火を絶やさないために、お弟子さんが大量の炭を小鉈で切る。一度に使う炭の量は約300kgにものぼる。お弟子さんが切った大量の炭を火床に投入し、鋼を熱する。

そのすぐ横に備え付けられているのは鞴(ふいご)という送風装置。河内さんはその鞴を左手で操作し火床に空気を送り込み、右手で鋼を操り加熱する。火床で起こる炎は、無数の細かい火の粉を上げながら、大きくなったり、小さくなったり、色も紫色からオレンジへと変わったりと見ていて飽きない。河内さんは時折「よおし、その調子だ!」といったように炎に言葉をかけている。まるでオレンジの毛をまとった動物を手なずけているかのように、河内さんの左手のリズムに合わせて炎が躍動する。

炎の中で熱せられた鋼の頃合いを見て準備が整ったら河内さんが鉄鎚(かなづち)で合図を送る。それぞれの仕事をしていた3人のお弟子さんが向鎚(大きな鉄鎚)を持ってスッと集まる。河内さんが取り出した真っ赤に熱せられた鋼めがけて3人のお弟子さんが順々に向鎚を振り下ろす。大量の火花が飛び散りトン、テン、カンと音が響く。

もし、この中に未熟な弟子が混ざると、的はずれな場所を叩いてしまい、トン、チン、カンとズレた音になってしまう。的外れでちぐはぐなことを「とんちんかん」という語源は鍛冶場から生まれたらしい。

工房全体はかなり暗い。自然光が入らないよう暗幕が引いてあるのは、熱せられた鋼の微妙な色の変化を見るためだそう。鋼を打つ際に飛び散る火の粉が勢い良く四方に飛び散る。暗幕カーテンをよく見ると、火の粉によって無数の穴が開いていた。

鋼を打って延ばし、切れ目を入れて折り曲げて、また打って鍛接する。これを火に入れながら繰り返し行う。溶けずに叩けるギリギリの温度、1000℃程度まで熱すると鋼の中の不純物だけが溶け出し、鋼を何度も練ることで粘りがでて強度が増す。

こうした鍛錬の後半には炭素量などが異なる材料を組み合わせ、鎚で刀の形に近づけていく。地鉄(じがね)と呼ばれる刀の景色には鍛錬の影響が出るので、作りたい刀のイメージに近づけていく。

形が整ったら「土置き」という、土を塗る作業を行う。厚く塗る部分と薄く塗る部分との違いによって、刀に文様が生じる。

730~760℃位に熱してから急冷する作業を「焼き入れ」という。このとき「土置き」で土を薄く塗った部分は組織変化によって硬くなり、厚く塗った部分は急冷がされにくいため組織変化が起こらない。このように組織の違いが生じる部分に光が当たると乱反射をし、これが刃文と呼ばれる白い波のような模様となる。まるで水や雲などの風景画をモノクロームで描くようだ。

刀鍛冶の仕事はどのくらいの時間で習得できるものなのでしょうか?

うまい連中やったら3年練習したら刀できますよ。僕に言わせれば。ただね、刀ができるだけやったら機械と一緒や。ベルトハンマーを使ったって向こう鎚(長柄の大鎚)でやったって一緒ってことないけれども、向こう鎚でやっても刀になるし、それでないといかんというわけでもないですよ。

ベルトハンマーでやった方が綺麗に行くよ。出来上がったものを見たときに、これはベルトハンマーでやったか、これは向鎚で人間だけの手でやったんかってそんなことわからへんですよ。全然わからんですよ。でもな、作っていく過程でな、ベルトハンマーはモーターに繋がっとる。こっちの、手で叩いてるのは心に繋がっとる、その辺の違いですよ。その刀を見るときにな。

長年、刀をつくりながら、お考えになっていることはありますか?

ものすごい矛盾を抱えて仕事しているのが辛いんですよ。使わないもんな。素人の人が「河内さんの刀、切れますか?」と言ったら僕は「絶対切れる」っていうよ。ちゃんとやってるからね、仕事を。でも「切れます」と言うけれど実は使ったことないのや、自分の刀を。この辺がものすごい矛盾でね。切ったこともないのに切れますと言わざるを得んというかな。

もし、「美しいものを作ってるんです。切れませんよ」って言うたら、やっぱり全然興ざめでしょ。鉄砲をもし作ったって、弾が飛ばなかったら本当は意味ないやんか。いかに綺麗な鉄砲を作っても「撃ったことないんです」ではな。

現代における矛盾、ということでしょうか。

地元の小学校の子供たちが見学に来ると刀の説明をします。みんな喜んで聞いてくれる。それで最後に刀持ってみて「どうだ?」って言うて、「こういうものを昔は使ってたんですよ」と話をするんです。

でも帰りがけにな、子供たちに「何か質問ありますか」と聞くと、子供は「おっちゃん、なんで今頃刀作ってんの?」と…。いつも答えられへん。子供が最後にそういう質問してくると、ふっと我に返るな。

刀自身は悪いことない。神格化されたり、家宝になったり、日本人の精神の代表みたいになってみたりね。ものすごく色々な意味で日本の中では意味のあるもんなんだけども、一方で銃刀法がある。教育委員会からは文化財だと言われても、警察からしたら凶器なんですよ。その両方の法律に縛られてね、本当はどうやったらいいかわからんというのが今。本当に、我々も思い切ってもう「美術品です」って言い切りたいんだけどね。そんなつもりで作ったら刀っていいものできないよ。用の美やもんな。使うために美しくなったもんだからね、美しいから切れるんではないよ。切れるから美しいねんからね。そこを外してしもうたら何もならへんでしょ。そんな矛盾をものすごく抱えながら毎日毎日仕事してますよ。

壁に飾られていた刀剣をじっくり観察していると、刃紋に吸い込まれるようだ。僅か3cmの幅の中に波打つ紋様は、雲海のようにも、雪を被った山脈のようにも見え、美しい。 「武器でもあり美術品でもある」という河内さんの言葉、矛盾を孕んでいるからこそ、私たちは緊張感のある美しさに惹き込まれるのかもしれない。こうした葛藤も、卓越した技術と共に後世に託されていくのだろうか。

河内 國平(かわち くにひら)

1941年大阪生まれ。第14代刀匠河内守國助次男。1966年関西大学法学部卒業。奈良県指定無形文化財保持者。日本美術刀剣保存協会無監査。2014年、現代では不可能とされた平安時代末期~室町時代の古刀が持つ地斑「映り」の再現に成功し、刀剣界最高の「正宗賞」を受賞。専門家は「驚くべき成果。不可能とされた現代の材料で再現する技術を持つ唯一の刀匠だ」としている。 主な受賞歴、正宗賞、高松宮賞、文化庁長官賞、毎日新聞社賞、日本美術刀剣保存協会会長賞、全日本刀匠会会長賞、薫山賞、寒山賞他。

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