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自分の器を孫へ託すことができる漆の魅力

#伝統工芸#石川 良

石川漆工房

石川 良さん

1884(明治17)年創業の漆器メーカー、京都府伏見区にある石川漆工房の石川良さんを訪ねました。プロダクトデザイナーと共に3Dプリンターで出力した器に漆を塗るなど、新しいことにチャレンジする一方で、伝統工芸を守っていく難しさにも直面している漆のしごとについてお話を伺いました。

石川さんが漆のお仕事を継がれた経緯を教えてください。

元々僕の曽祖父が江戸末期の生まれで、京都で漆の職人をやっていました。取りまとめ役みたいな仕事で、漆の事業をかなり手広くやっていたようです。漆職人というと、家の一角で一人二人でやっているといったイメージですが、昔見せてもらった仕事仲間と写っている曽祖父の写真は、八坂神社で花見をしているもので、二、三十人のど真ん中に座って、いかにも貫禄あるボスといった雰囲気で写ってるんです。(笑)

当時は職人の名前は出さずに物が流通していた時代でしたが、曽祖父は自分の名前で物を売っていたそうです。今でこそ普通ですが当時ではかなり珍しかったと思います。

手広く事業をやっていましたが、祖父の代になって戦争が始まると、京都の町中が強制疎開で出て行くしかなくなり、作業場がなくなってしまったんですよね。戦争が終わって、前みたいに大人数抱えてやっていくような社会状況ではなかったので、祖父は皆さんがイメージするような漆職人の姿、家で一人座ってコツコツと漆の仕事をしていました。

戦後、徐々に日本の景気が良くなってきた頃、父とその兄二人は曽祖父の手広い仕事ぶりを見て憧れもあったようで、父と二人の兄で今の会社を作りました。そして、漆を塗る前の木地を作る作業と漆塗りの作業を、分業することを始めました。私の父は当時大学に通っていましたが、兄から大学を辞めろと言われて一緒に会社をやることになり、その後二人の兄が早くに亡くなってしまったので、結局一番長く社長をやることになりました。

ご自身はどんなきっかけで始められたんですか?

僕は普通の大学を卒業して、CM制作会社に就職して働いていましたが、その頃に祖父が亡くなりました。祖父は80歳を超えてからは、仕事としてはあまりやっていませんでしたが、漆のことに関しては亡くなる日までやっていたと思います。家で亡くなったので。当時、僕は普通にサラリーマンをやっていましたが、自分は死ぬ日まで仕事をすることは無いだろうと考えていました。それが、祖父の死をきっかけに、退職してどこかで第二の人生を送るような生き方ではなく、祖父のように、ずっと長く死ぬ日までやれるような仕事をしたいと考えるようになりました。それで自分に一番身近だったのが漆だったということです。

次世代への継承に関してどうお考えですか?

若い世代で伝統工芸をやりたい人は、むちゃくちゃ多いんですよ。それは漆器だけでなく、陶器、木彫、表具なんかも。京都には、他の地域と違って多くのジャンルの伝統工芸がありますから、関わりたいという若い人が集まって来てくれます。でも現実的に、伝統産業は日本全体で広がっているわけではありませんから、産業として守っていかないといけません。毎年、専門学校や美大を卒業した若い人達が雇われる場所があるかというと厳しいですし、ましてや作家さんに弟子入りできる可能性はもっと低いです。

伝統工芸を継続する上での懸念や危機感はありますか?

日本の漆は約7割が岩手県産ですが、木を植えた後に漆が取れるのは15~20年後です。それも1本の木から取れる漆は牛乳瓶1本分、250cc程度しかありません。「漆の一滴は血の一滴」と言われるほど貴重なんです。

漆は地球全体で見ると、アジア圏にしかありません。昔は中国から日本に漆の文化が入ってきていましたが、今では中国で漆を使う文化は完全に止まってしまったようで、棺くらいにしか塗っていないらしいです。そして日本は、国内で使用する漆の約97%を中国からの輸入に頼っています。日本の漆屋さんが精製してくれる限りは漆のクオリティに問題は起こらないと思いますが、漆屋に漆が入らなくなったらどうにもならなくなってしまいます。昔は中国産であれば、日本産よりも安い値段で購入できましたが、最近では中国の経済発展によって漆の値段が高騰してきています。また、中国がもう漆を取りませんと言ったらもう終わりです。

じゃあどうしようか、という話をよく漆屋さんとも話すようになりました。漆屋さん自身も漆の可能性をアピールしたり、漆職人さんと案を出して正規の値段で売れるようなプロジェクトを立ち上げたりしています。例えば、通常使わない京都の木材を使っ取組みなど、色々と可能性を考えています。

あらためて漆の魅力とは?

残念ながら漆の魅力は、一般的にはあまり理解されていないと思っています。同じ器でも、陶器やガラス、鉄器といったものは分かりやすいですが、漆って実際どういう物なのか、作り方やなぜ高価なのか、分かり難いですよね。

漆の特徴としては、日本では縄文時代から長く使われている、自然から生まれた塗料であることです。丁寧に使えば、自分が使っていたものを子供に託し、さらに孫の世代まで使えるものにできるのも漆の魅力です。物は使って捨てるのではなく、代々大切に使われていくものだということを、漆は教えてくれるのです。

石川 良(いしかわ りょう)

1978年京都生まれ。大学卒業後CM制作会社勤務を経て、曽祖父が始めた漆事業を生地の伝統工芸士である父とともに石川漆工房として共同運営を始める。プロダクトデザイナーと広報の3名からなるユニット「URUS.」では3Dプリンターで作った立体に漆を塗ったプロダクトなどを発表し、伝統工芸という枠にとらわれない漆作品を発表している。

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