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南部鉄器老舗の16代目を受け継ぐ
有限会社鈴木盛久工房 代表取締役社長
鈴木 成朗さん
岩手県盛岡駅から車で15分。創業は寛永2(1625)年という長い歴史を持つ鈴木盛久工房を訪ねました。十三代鈴木盛久氏は、昭和49(1974)年に国の無形文化財として指定を受けた南部鉄器の名工です。16代目を受け継ぐ鈴木さんに、南部鉄器への想いを伺いました。
まず、南部鉄器の魅力について教えていただけますか?
正しく手入れをすれば、非常に長く使うことができます。長く使う過程で、少しずつ朽ちて変化していく、オーナーさんの使い方で姿が変わっていく楽しみは魅力の一つです。また、鉄瓶でお湯を沸かすことで、鉄分を補給することもできます。南部鉄器からはイオン化された、身体に吸収されやすい鉄分が溶出されるので、健康に良いという面でも魅力があります。
鈴木盛久工房としての伝統的な様式というものがあるのでしょうか?
特に鈴木盛久はこういうデザインでなければいけない、という決まりはありません。実は代々の当主で割と傾向は異なっています。15代が母なのですが、母のデザインとして吸収できることはしつつも、やはり僕は僕なりのデザインを意識しています。
この仕事を始める前はグラフィックデザインの仕事をしていたので、自然と頭が色々なところでネタを探しているような状態になっています。古い鉄器ももちろん見ますが、比較的自分の作品は、他の分野のデザインを取り入れることが多いです。グラフィックデザインや、訪れた街の建築や家具などからインスピレーションを得ることがあります。例えばこれ(目の前の作品)も、アジアのタイル紋様みたいでしょ。そのまま転用しても合わないので、どう南部鉄器のデザインに落とし込んだら面白くなるかを考えています。
自分が作りたいものを作っていきたいと思っていますが、それでいて工房としてのクオリティ、ブランド力や技術力は、しっかりキープしていきたいという気持ちです。
跡継ぎや材料など、伝統工芸の継承に対して危機感など感じることはありますか?
そうですね、結局南部鉄器は、作家や工房一つで成り立っているわけではなく、地場産業として鉄も必要、漆も必要、木炭も必要だし、パッケージを作るための箱屋さんも必要…と色々な人達が関わっています。だから、そのどこかが続かないということになったら、全部に影響が出てしまいます。数年前、木炭が無くなってしまうという問題がニュースになりましたが、過去に何度かそうした危機感を感じたことがありました。
鈴木さんが南部鉄器の道を決意したタイミングはいつ頃だったのですか?
小さな頃から、母方の祖父が南部鉄器の仕事をしていたので、よく遊びに行っては工場で砂遊びをしていました。小学校4年生の時、祖父が急に他界してしまったのですが、工場はその後も祖母と残った職人でやりくりしていました。5年くらいその状態が続いた後、僕が高校1年生の時、母が「自分がやる!」と決心しました。そこからですね、代々親から子へ世襲で継いでいることはわかっていたので、母が始めるということは、次は僕ら3人兄弟の誰かが継ぐのだろうと。中でも美術が好きで得意だったのは僕だったので、必然的に自分だろうと高校生の時に漠然とイメージしていました。進路も美術の学校が良いだろうと意識していましたね。
文化を過去から未来へ伝えていくことについて、意識されていることはありますか?
伝統の形を、いつまでも同じように出していくことは難しいと感じています。伝統工芸自体が、その時代ごとにアジャストしていかなければならず、昭和なら昭和、令和なら令和と、微妙に変化していくものだと思っています。今であれば、インターネットを活用したコンテンツ発信や、海外との繋がりなど、時代に合わせたアウトプットを意識をしています。
うちには息子と娘がいますが、僕と違って生まれた時から親の仕事がこれなので、背中を見ているうちに興味が沸いてくれればいいなとは思っています。「おまえもやるんだぞ」とは一言も言っていませんが、子供たちが興味を持ってもらえるように、自分が面白い仕事をしていきたいです。
最後に、日本の伝統や文化が好きな方へ南部鉄器のアピールがあればお願いします。
結構よく言われるのが、南部鉄器って手入れが大変じゃないか、使い難いんじゃないかという先入観なのですが、南部鉄器はほとんどメンテナンスは何もしなくても使える道具です。まずは何か使ってみて、沸かしたお湯の味を体感するところから、楽しんでみてください。
鈴木 成朗(すずき しげお)
1972年、熊谷志衣子(15代鈴木盛久)の次男として盛岡に誕生。東京藝術大学美術学部工芸科鋳金専攻卒業。アパレルブランドのグラフィックデザイナーを経て2008年より鈴木盛久工房で鋳金工芸を開始。2013年より「日本伝統工芸展」等公募展へ作品出品。2017年にはLEXUS NEW TAKUMI PROJECT2017岩手県代表の『TAKUMI』に選出、2020年にはApple社広告「Macの向こうから」に起用される。2022年、第16代鈴木盛久を襲名(2024年3月に日本橋三越にて襲名披露展覧会開催予定) (有)鈴木盛久工房代表取締役社長、日本工芸会準会員、日本工芸会金工部会員、日本工芸会東日本支部会員、日本鋳金家協会会員。
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